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JR大阪駅、中央コンコース吊下げサイン

サインデザイン

意外と知らない
サインデザインの世界

 巨大な国際空港やターミナル駅において、人々が道に迷うことなく安心して移動できるようにするためには綿密なサイン計画と適切なサイン設計が必要です。サインはたくさん設置すればするほど人々に伝わるというわけではありません。サインの数が多いほどかえって人々には無視されやすく、そのために設置費用も無駄になることがあります。なぜなら、移動中の人は止まっている時より視野角が狭くなり、安全に進むためには過剰なサインはノイズとしてみなされ景色に埋もれてしまいやすいからです。良いサインデザインとは、必要最小限のコストで効果的な案内を行うことです。このコストとは設置する側のものだけを指しません。サインを利用する人が、最小限の負担と労力でスムーズに目的地まで到達できることがサインデザインの目指すところです。

JR大阪駅、うめきた地下口ホーム出口サイン
JR大阪駅:うめきた地下口ホーム 出口サイン

人々が歩く様子を想像して

 良いサインデザインのために、私はまず動線の計画から始めます。公共の空間では、多くの人々がそれぞれの目的をもって行き交います。その場所ではどのような目的をもって移動する人がいるかを想定し、目的ごとに最適な移動経路を設定します。最適な移動経路とは最短距離であれば良いというものではありません。距離の他に、右左折が少なくわかりやすい道か、道幅が広く安全に通行できる道か、車いす利用者でも通行できる段差のない道か、などを考慮して設定します。

JR大阪駅、西口コンコースの柱サインと吊下げサイン
JR大阪駅:西口コンコース 柱サインと吊下げサインの連携

 次に、計画した動線に沿ってサインに表示する内容や設置場所を計画します。設置場所については、基本的に動線の交差点や分岐点になる場所に、動線に対して正対する向きに計画します。なぜなら、サインの表示面が狭い視野角に確実に収まるようにするためです。また、分岐点と分岐点の間の直線経路においても、全く情報がないと移動中の人に不安を与えてしまうので、20〜40mの間隔で中継するサインを計画します。

JR大阪駅、ホーム出口吊下げサイン
JR大阪駅:出口を誘導するホーム吊下げサイン

”一瞬で伝わる”ことへの追求

 表示内容については、利用者が移動しながらでも瞬時に情報を読み取れるよう、その時その場所で需要の高い情報を優先して情報量をコントロールし、できるだけシンプルで伝わりやすい表現を選びます。時には言葉による表現だけでなく図記号やイラストを活用して直感的に伝える工夫を試みます。サインの色や形、大きさなど具体的なデザインには人間工学的観点も考慮に入れます。たとえば、天井から吊下げるタイプのサインの場合、2.5mの高さにあるサインが歩いている人間の自然な仰角視野に入る距離は10m程度手前までとされております。すると、表示する文字は少なくとも10m手前から読める大きさとしたいので、縦の長さが和文は40mm、英文は30mm以上となる文字サイズとする必要があります。

JR大阪駅、西口コンコースのデザインが統一された柱サイン
JR大阪駅:西口コンコース デザインが統一された柱サイン

このようにして、文字の他にも、誰にでも見やすい配色や明るさ、情報量に適した大きさなど、利用者ファーストな視点で必要な条件を決めていく一方で、建築や空間の雰囲気に調和し、その施設が持つアイデンティティやコンセプトを表現するサインをデザインしていきます。サインの目的は、人々が安心して、安全に、そして心地よく移動できる空間を提供することであり、スムーズに目的地に到達できた人が余った時間を有意義に過ごすことができれば、それが良いサインデザインだと考えます。

JR大阪駅:連絡橋口コンコース
JR大阪駅:連絡橋口コンコース